鍼治療後にだるい・眠いと感じるのは好転反応って本当?理由を解説
鍼灸院での施術直後から数日間にかけて、体がすっきりするというケースもあれば、だるさや眠気を感じるケースもあります。施術を受けたことによってこうした症状が発生すると、不安に思う方もいるでしょう。
結論から伝えると、鍼灸施術後に感じる身体の不調は、基本的に「好転反応」と呼ばれる軽い副作用の一種です。基本的には2~3日で治まるため、過度に心配する必要はありません。
そこで今回は、鍼灸施術後に倦怠感や眠気を感じる理由・鍼灸施術で起こり得るその他の好転反応・好転反応の対処法を詳しく説明します。好転反応に関する知識をもち、施術後の副作用をなるべく回避しましょう。
1.鍼治療後にだるい・眠い・ズーンと体が重いと感じる理由
鍼灸院での施術後に、体のだるさや重さ、さらに眠気といった身体の不調を感じる方は一定数います。施術前には感じていなかった不調であることから、不安を抱くのは当然でしょう。
しかし、これらの症状は東洋医学において「瞑眩(めんげん)」と呼ばれる好転反応であることがほとんどです。いわば軽い副作用であり、体調・体質による個人差もあります。たとえ発生しても大きな問題が起こる可能性は基本的にありません。
また、好転反応は整体院での施術で起こりやすい「もみ返し」と混同されることも多いですが、もみ返しは施術部位周辺にピンポイントで痛みが発生する現象であり、好転反応と違って悪い副作用とも言われています。
では、なぜ鍼灸施術後には好転反応が起こり得るのでしょうか。ここからは、鍼灸施術後に好転反応によって倦怠感や眠気を感じる具体的な理由を紹介します。
1-1.血流が改善し血圧が下がる
鍼灸院での施術で全身のツボを刺激すると、一時的に血流が改善し、代謝が活発化します。同時に自律神経の働きを整えるはたらきをするため、血圧・心拍数といった体のリズムも整うと考えられています。
もともと高血圧気味だった方の場合、一時的に血圧が下がることによって「体がだるい・眠気がする」といった症状が発生しやすくなります。
1-2.副交感神経が優位になりリラックスする
鍼灸施術を受けると、全身にリラックス効果を感じることもあるでしょう。こうした癒し効果は、筋肉の緊張を和らげて副交感神経を優位にさせます。
副交感神経が優位になると体がリラックスモードに入り、血圧がゆるやかに低下するだけでなく呼吸が深くなったり心が安定したりして、結果的に眠気も生じます。就寝前や休日であればさほど問題はないものの、眠気はいわば「無気力」にもなるため、仕事に支障をきたすおそれもあるでしょう。
1-3.筋肉の緊張がゆるむ
鍼灸施術後の体のだるさ・重さは、筋肉の緊張がゆるんだことが主な原因となります。
鍼灸施術を行った部位では、筋肉を支配する交感神経が抑制されます。交感神経が抑制されると、筋肉の過緊張が一時的に緩和され、結果として体のだるさ・重さが生じるというしくみです。
また、針の刺激によって感覚神経末端からカルシトニン遺伝子関連ペプチドが放出されて筋肉の血管が拡張することも、鍼灸施術後における倦怠感の1つの要因と考えられています。
2.鍼灸で起こりうるそのほかの副作用(好転反応)
鍼灸施術による副作用(好転反応)としては、体のだるさ・重さや眠気以外にも次のような症状が挙げられます。
【鍼灸で起こりうる眠気・だるさ以外の好転反応の症状】
- 不眠
- 一時的な痛みの悪化
- かゆみ
- 発熱
- 吐き気
- 頭痛
- 胸痛
出典:東京大学学位論文データベース「鍼治療の安全性情報確立のための臨床研究 : 有害事象の前向き調査」
上記を見て分かるように、好転反応には多くの症状が挙げられるものの、実際にこれらの症状が出るのはおよそ50人につき1人程度と非常に少ないことが特徴です。多くの方が心配するほどではなく、杞憂に終わることも多々あるでしょう。
加えて、いずれの症状においても、発生期間は2~3日程度と比較的短期間です。また、鍼灸院では好転反応の発生を加味して安全対策をとっていることが基本であり、薬物投与と比較すると安全性も圧倒的に高いため、過度に不安に思う必要はありません。
3.鍼治療後にだるさや眠さを感じた時の対処法
鍼灸院での施術中に体のだるさや眠さを強く感じた場合は、寝てしまっても問題はありません。むしろ、「起きていなければ」と気を張るよりも、リラックスしながら施術を受けることが大切です。施術中にリラックス状態となったことから入眠する方は多く、施術が終わるまでは起こされることもありません。
また、施術後も体のだるさや眠気が続く場合は、なるべく横になって安静にしておくことがポイントです。加えて、日常生活においてもいくつかの注意点があります。
鍼灸施術後に好転反応を感じたときの「日常生活における注意点」および「対処法」を紹介します。
3-1.施術直後は入浴を避ける・長湯しない
鍼灸施術を受けた直後は、血行が促進されてのぼせやすい状態となっているため、なるべく入浴を避けておきましょう。どうしても当日に入浴したい場合は、施術後から2~3時間あけることをおすすめします。
短時間の入浴であれば問題ないケースがほとんどですが、長湯はのぼせてしまうリスクが非常に高まるため、たとえ3時間以上が経過していても当日は避けたほうがよいでしょう。
また、たとえ短時間の入浴であっても入浴前にはしっかりと水分補給をし、普段よりもぬるめのお湯に浸かることが大切です。
3-2.施術後は飲酒しない
鍼灸施術を受けて血の巡りがよくなっているときは、普段よりもアルコールに酔いやすい状態となっています。
この状態でいつも通りのアルコール量を摂取すると過度に酔ってしまうだけでなく、施術効果が減弱してしまったり、症状の変化が分からなくなったりするおそれもあります。
そのため、施術後にどうしても飲酒をしたい場合は最低でも2~3時間あけ、ほどよい量に留めておきましょう。もともとお酒に弱い方であれば当日の飲酒は控えておくと安心です。
また、翌日からの飲酒は問題ないとされているものの、好転反応が起きやすい施術後数日間や何らかの好転反応が出ている場合は、症状が快方に向かうまで飲酒を控えておくのが最善と言えます。
3-3.激しい運動は避ける
鍼灸施術では、針を刺入したりもぐさを置いて燃焼させたりするなどして、物理的な刺激を与えます。施術直後や当日に激しい運動をすると体にさらなる負荷をかけてしまい、倦怠感をはじめとした好転反応の発生・増大につながります。
施術後の適度な入浴や飲酒は2~3時間を経過していれば問題ないとされていますが、激しい運動においては「当日NG」が基本です。
また、激しい運動と聞くとランニングや本格的な筋トレをイメージする方も多くいるでしょう。しかし、普段から運動をしていない方にとってはウォーキングや軽いストレッチでも、体に慣れない負荷をかけてしまっている状態となり、眠気やだるさの発生につながるおそれがあります。
自分の中では「激しい運動ではない」と感じていても、体にとっては大きな負担となっている可能性もゼロではありません。施術当日は、できるだけ無理に動かず安静にしておくことをおすすめします。
4.だるさや眠気が続く場合は要注意
基本的に瞑眩は施術後数時間、長くても3日程度で治まります。しかし、3日以上症状が続く場合は単なる好転反応ではなく、部分的に炎症などが起きている可能性があるため、すぐに医療機関またはかかりつけの医師に相談することが大切です。
また、施術直後からひどい咳や息苦しさが続いたり、全身にかゆみや蕁麻疹が生じたりする場合は要注意です。咳・息苦しさは、肺を包んでいる胸膜に穴が開くことによって生じる「気胸」の可能性があり、かゆみ・発疹は「金属アレルギー」や「もぐさアレルギー」の可能性もあります。
こうしたケースは非常にまれですが、放置しておくとさらに悪化するおそれもあるため、少しでも不安を感じた時点で医師の診療を受けることをおすすめします。
なお、鍼灸施術を受けるたびにだるさや眠気が発生する場合は、施術者を変えたり、刺激量の少ない施術メニューに変えてもらったりするなどの対策を講じることも大切です。
まとめ
鍼灸院での施術後に感じる、体のだるさや重さ、さらに眠気といった身体の不調は、東洋医学において瞑眩と呼ばれる好転反応から起こる症状です。軽い副作用の一種であり、発生することに対して「良い・悪い」はありません。
鍼灸施術後の好転反応として体のだるさや眠気を感じる原因には、血圧の低下・副交感神経によるリラックス状態・筋肉の緊張の緩和などが挙げられます。また、実際にこのような症状が出る方は少なく、たとえ症状が出たとしても2~3日で治まることがほとんどなため、過度に心配する必要はありません。
好転反応をできるだけ早く緩和させたいのであれば、施術当日の入浴・飲酒・激しい運動は避け、安静に過ごすようにしましょう。
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