中国鍼灸と日本鍼灸|違いやそれぞれの歴史を解説
鍼灸は中国から伝来した施術方法であり、日本に伝わった後、独自の発展を遂げました。日本の鍼灸には、中国にはないオリジナルの施術方法があり、痛みを感じにくい方法が取られえています。現在の中国鍼灸と日本鍼灸は異なるもののため、鍼灸について理解を深めるには各国の鍼灸の違いを知るとよいでしょう。
当記事では、中国鍼灸と日本鍼灸の歴史や特徴について解説します。鍼灸の施術に興味があある方は、ぜひ参考にしてください。
1.中国鍼灸とは?
中国鍼灸とは、2,000年以上前に中国で誕生した施術方法です。鍼や灸に使うもぐさの種類はさまざまで、症状や目的に合わせて施術者が鍼灸技法を使い分けます。
中国鍼灸は、伝統医学である中医学(中国医学)の理論にもとづく分野の1つです。ここでは中医鍼灸の特徴や歴史を解説します。
1-1.中医鍼灸の特徴
中医鍼灸の特徴は以下の3つです。
整体観(せいたいかん) |
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人体は、気候やストレスなどのさまざまな影響を、周りの環境から受けています。同時に、自然環境とのバランスを取りながら、人体の内部ではさまざまな部位が影響し合っています。中医鍼灸の整体観は「バランス医学」とも言えます。 |
弁証論治(べんしょうろんち) |
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弁証論治とは、施術を受けるお客様それぞれの体質や、不調の原因・プロセスを分析して判断し、適切な施術方針を決めて実施するというものです。中医鍼灸はオーダーメイドのような施術と言えるでしょう。 |
未病先防(みびょうせんぼう) |
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未病先防とは、体の状態に変調が感じられた場合に、早めに対応して不調を防ぐという考え方です。中医鍼灸では、調子の悪くなりにくい体質を作るために、「予防」を重視しています。 |
1-2.中医鍼灸の歴史
中医鍼灸は、長い歴史を持つ伝統的な中医学にもとづいた施術方法です。
中医学は有史以前の時代から、当時の中国の皇帝によって守られ、医学者たちに深められながら、体系が整えられました。中国大陸という広大な土地で、それぞれ異なる風土や環境の中、長きにわたって疾病と闘いつづけた経験がまとめられています。
前漢時代(紀元前200年ごろ)には、「黄帝内経(こうていだいけい)」という医学書が書かれました。「黄帝内経」には、中医学の基礎理論から技術、実践までが記されています。現代の中医学においても、「黄帝内経」にまとめられている考え方が活用されています。
後漢時代(25~220年)には、張仲景(ちょうちゅうけい)という人物が、漢方薬の基礎となる「傷寒雑病論(しょうかんざつびょうろん)」を編さんしました。
また、「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」には365種類の生薬について記載されており、中医学の生薬の専門書として有名です。
「黄帝内経」「傷寒雑病論」「神農本草経」の3つの書が、中医学の理論の原点となっています。
3つの書以降も、中国ではさまざまな医学書や処方が生まれています。また、時代ごとの流行病の検証なども踏まえ、新たな治療法が医学体系に組み込まれました。中医学の理論は発祥以来、中国全土で発展しつづけていると言えるでしょう。
2.日本鍼灸とは?
日本鍼灸は、中国から伝えられた中医鍼灸の理論が、日本で発展したものです。500年代初頭、仏教伝来と同時期に伝来しました。
現在、日本鍼灸は、人々の健康維持・増進を期待できる施術方法として活用されています。ここでは、日本鍼灸の歴史を詳しく解説します。
2-1.日本鍼灸の歴史
中国で誕生した鍼灸技術は、6世紀ごろ、大和朝廷の時代に中国から朝鮮半島を経由して日本に伝えられました。伝来後、律令制度が整えられる中で、「鍼博士」や「鍼生」などの官職が、鍼灸を担う医療職として設けられています。
平安時代(794~1185年)には鍼博士の丹波康頼(たんばのやすより)が、現存する日本最古の医学全書「医心方(いしんぽう)」をまとめ、円融天皇に献上しました。
その後、明治時代(1868~1912年)の初めごろまでは、日本鍼灸は漢方薬とともに日本医学の重要な位置にありました。主要な医学として西洋医学が導入されると、鍼灸は民間療法として広まります。
1971年、アメリカのニクソン大統領が中国を訪問し、中国の鍼麻酔が世界的に報道されました。国際的に鍼治療が注目される中で、日本でも改めて鍼のブームが起こります。鍼灸が伝播されるに従い、鍼灸を科学的に解明しようとする鍼灸研究のアプローチが国際的に盛んになりました。
近年、鍼灸の施術は、日本や中国だけでなく、欧米をはじめ世界各地で活発に行われています。2008年には、日本・中国・韓国の3か国の鍼灸関係者が行う協議によって、鍼灸術で用いる経穴の位置が公式に定められました。国際的な標準化は、現在も進行中です。
3.中国鍼灸と日本鍼灸の違いは?
鍼灸は東洋医学の1つとして中国から伝わったものですが、施術の目的や使用する鍼や灸など、現在の中国鍼灸と日本鍼灸にはいくつかの違いがあります。中国鍼灸と日本鍼灸それぞれの違いを紹介するので、お客様一人ひとりに合った鍼灸術を提供するために、ぜひ参考にしてください。
3-1.施術の目的
中国鍼灸は、病気の自覚症状の改善といった、病気の治療を施術の目的としています。
一方、日本鍼灸の施術目的は少し異なります。日本鍼灸を施術する目的は、鍼灸施術を受けたお客様が「調子の悪いところが楽になった」「気持ちがよくてリラックスできた」「きれいになった」などと感じられることです。
3-2.使用する鍼や灸
中国鍼灸で使用する鍼や灸は以下の通りです。
鍼 | さまざまな鍼(太い鍼・細い鍼・長い鍼・短い鍼)を使いますが、日本鍼灸の鍼よりもやや太くて長い鍼を用いる場合が多くなっています。 |
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灸 | モグサ(ヨモギの葉の裏側にある繊毛を精製したもの)を含む、漢方配合の灸を使用します。 |
日本鍼灸で用いる鍼や灸は以下の通りです。
鍼 | 極めて細い鍼と、江戸時代前期(1600年代後半)に鍼師・杉山和一が考案した、鍼管(しんかん)というストロー状の管を使って施術します。 |
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灸 | 日本鍼灸で使うのはモグサの灸です。 |
特に鍼施術では、中国と日本で大きな違いがあります。
中国鍼灸の施術法では、日本で使われている鍼管は用いません。鍼灸師の手首のスナップを使い、鍼を直接肌に刺入します。日本と比べて太く長い鍼を用いて、刺激の強い鍼灸手技を行うことが多い傾向です。
日本鍼灸で一般的な鍼の打ち方は、鍼管を使った管鍼法(かんしんほう)です。管鍼法は日本独自の技法で、鍼管はガイドチューブのような役割を果たします。
鍼管は鍼よりやや短く、金属またはプラスチック製です。管鍼法では、鍼管に鍼を挿入し、わずかに出ている鍼の柄の部分を軽くたたいて刺入します。鍼を比較的容易に刺入でき、刺入するときに感じる痛みを少なくできるため、現在の日本鍼灸で広く活用されています。
3-3.医学の位置づけ
中国鍼灸と日本鍼灸の、医学的な位置づけの違いは以下の通りです。
・中国鍼灸の医学の位置づけ
中国では、中医学の観点から、「鍼灸科」が内科や外科と並ぶ診療科として病院に設けられています。中国鍼灸は、病気を治すために医療機関で行う医療技術として認められています。
・日本鍼灸の医学の位置づけ
日本では、鍼灸が代替医療ととらえられる場合もあります。しかし一般的には、日本鍼灸は日常生活の中の身近な民間療法のような位置づけです。
まとめ
鍼灸には中国鍼灸と日本鍼灸があり、歴史や施術の特徴などが異なります。中国鍼灸は病気の治療を目的にしたものですが、日本の鍼灸はリラックス効果や体の不調を整えるのが目的です。施術の方法も日本独自のやり方が伝わっており、特に鍼施術は中国のものよりも痛みの少ない施術方法が広まっています。
鍼灸は、病気を未然に防ぐことを重視する施術です。体に異変を感じたときは、鍼灸施術で早めに体の調子を整えるのもよいでしょう。
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