鍼灸は体質改善に効果的?鍼・灸の効果がある適応症を解説

鍼灸は体質改善に効果的?鍼・灸の効果がある適応症を解説

鍼灸は東洋医学の伝統的な施術方法であり、効果を発揮するメカニズムや、効果のある症状については現在は十分に分かっていません。ただし一般的に、鍼灸は体質改善に効果があると言われており、臨床研究で体質改善効果を報告している論文も複数存在します。鍼灸は副作用が少なく、一定の効果が期待できるため、高血圧や肩こり、不眠、冷え性などの悩みがある方にとっては選択肢の1つとなるでしょう。

この記事では鍼灸の体質改善効果について、臨床研究で一定の効果があると報告された適応症や、施術の効果が出るまで必要な期間を解説します。

1. 鍼灸は体質改善に効果がある?

鍼灸は、現在臨床研究を積み重ねている段階にあるため、体質改善に確実な効果があるという強いエビデンスを示すことはできません。一方で、体質改善に効果があるという研究報告は複数存在します。鍼灸施術を受ける中で、風邪を引きにくくなったり、冷え性が改善したり、よく眠れるようになったりと体質改善効果を感じられる方も確認されています。

鍼灸の体質改善のメカニズムには分かっていない部分も多いです。鍼灸に効果がある理由として、日本鍼灸師会は人の身体に備わっている病気・ケガを治す「自然治癒力」や、病原菌から身を守る「免疫力」への影響を提唱しています。

日本鍼灸師会は、鍼灸は、目に見えない微細なやけどや傷を皮膚や筋肉に付け、新陳代謝を高めることで、肩こりや腰痛に効果があるとしています。また、皮膚を刺激すると、自律神経の活動が変化し、臓器や器官の動きが整えられるため、ホルモンバランスや血圧も改善します。

体質改善の補完療法としての鍼灸施術は、副作用が少なく、一定の効果を期待できるため、虚弱体質や血虚体質などの悩みを抱えている方の選択肢の1つとなるでしょう。

2. 鍼灸が効果的な可能性がある適応症

鍼灸施術が効果的な可能性がある適応症は、幅広く存在します。ただし現状はまだ、どの適応症でも、強いエビデンスを裏付ける論文や公的資料はありません。臨床研究で一定の効果が確認されている症状の中から8つを紹介します。

2-1. 肥満

肥満について、「肥満症に対する耳針について」の報告書では、肥満体質者44名を対象にした施術により、平均して3~4kgの体重減少が確認されました。ただし、この体重減少については暗示やその他の疾患などに起因する可能性を排除できないため、肥満改善作用への強いエビデンスはありません。

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構J-STAGE「肥満症に対する耳針について」

一方で、「肥満の耳針療法」では、鍼灸施術によって空腹感を減少させ、満腹感を亢進するという報告がされています。肥満を改善するには、食事内容や運動などの生活習慣の改善が不可欠です。耳針施術を受けることで、ストレスなく食欲が抑制され、体重減少につながる可能性はあると言えるでしょう。

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構J-STAGE「肥満の耳針療法」

2-2. 高血圧

「鍼灸で血圧が下がる-高血圧の鍼灸治療」の報告書では、鍼灸施術は、正常範囲から逸脱した高血圧や低血圧に作用するという報告がされています。鍼灸施術による降圧効果は、治療開始後3~4週目で、約10~15mmHgという研究結果が発表されました。

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構J-STAGE「高血圧症に対する古典鍼法の効果について」

鍼灸によって得られる降圧効果は、交感神経の抑制と末梢血管抵抗の低下が一因である考えられています。それ以外にも多くの作用機序が考えられていますが、現時点ではメカニズムについては分かっていません。

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構J-STAGE「鍼灸で血圧が下がる-高血圧の鍼灸治療」

2-3. 不眠

鍼灸施術は、身体症状が原因となっている不眠障害に有効であると「不眠症を有する4症例に対する鍼灸治療の効果」という論文で結論付けられています。特に、手足の冷え、夜間頻尿、肩こりの症状を有する方の睡眠障害の改善が見られました。不眠を改善するには、一人ひとりの身体的症状に合わせた鍼灸施術が重要と考えられています。

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構J-STAGE「不眠症を有する4症例に対する鍼灸治療の効果:N-of-1試験を用いた検証」

また、スムーズな入眠には、脳や内臓などの中枢温度の速やかな低下が必要です。鍼灸による自律神経への刺激は、中枢温度の低下に効果があると考えられています。2週間施術を行うと、夜間の覚醒回数と日中の眠気が改善傾向を示したという研究結果も発表されています。

出典:森ノ宮医療大学学術リポジトリ「不眠症状と鍼灸治療」

2-4. 眼精疲労

明治国際医療大学が発表した「鍼治療による眼疲労および眼精疲労軽減効果」の研究では、鍼灸は愁訴を改善すると結論付けられました。10分間の施術を行った被験者には、目の疲れを評価するVisual Analogue Scale(VAS)に減少が見られました。一方、施術を行わなかった被験者には、VASに変化が見られなかったため、鍼灸施術には眼疲労や眼精疲労軽減の働きがあると言えるでしょう。

出典:明治国際医療大学「鍼治療による眼疲労および眼精疲労軽減効果」

鍼灸による眼精疲労の回復力を検証した研究や症例報告は、42文献収集されていると、「眼疲労および眼精疲労に対する鍼治療:文献レビュー」の論文で発表されています。多くの文献で、眼疲労または眼精疲労への治療として鍼灸施術は有効であることが示唆されています。

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構J-STAGE「眼疲労および眼精疲労に対する鍼治療:文献レビュー」

2-5. 免疫力の低下

鍼灸は、生体の自然治癒力の1つとしての免疫力を、神経系を介して調節する役割を持つのではないかという仮説が、論文で発表されました。

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構J-STAGE「免疫の仕組みと神経系…鍼灸との関わりの可能性」

鍼灸の刺激は、知覚神経を介する警告信号やサイトカインの誘導・局所反応系由来の警告信号などにアプローチし、免疫系を調節していると仮説を立てている論文もあります。現在、鍼灸の刺激は、複数の経路を介して免疫系に対して効果をもたらしていると考えられています。

出典:明治国際医療大学「鍼灸と免疫系」

ただし、鍼灸と免疫機能の関係は、基礎的研究の数が少なく、メカニズムの解明は進んでいません。今後、神経系と免疫応答との関連性を中心に、メカニズムを解明していく必要があると考えられています。

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構J-STAGE「鍼と免疫」

2-6. 肩こり

パソコンなどのVDT機器を使用する作業者61名を対象にした鍼灸の研究では、週1回の施術を計4回行うと、被験者全員の首・肩のこりが改善したという結果が報告されました。

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構J-STAGE「VDT作業者に対する鍼治療効果(1)」

鍼施術による刺激で、筋の硬さが緩むとともに、筋血液量が増加することが確認されています。筋の緩みと筋血液量の増加が重なり、筋肉の過緊張が緩むため、鍼灸は肩こりに有効性があると考えられています。

出典:公益社団法人全日本鍼灸学会「なぜ効くのかの10講」

2-7. 肌状態の悪化

肌状態に対する鍼灸の美容効果を調査した論文では、鍼灸施術は、シワやたるみの改善が見られたと報告されました。目尻のシワに対して、平行方向に施術を行う場合と、垂直方向に施術を行う場合の2通りを検証していますが、方向に関係なく施術直後はシワの改善が見られました。ただし、シワの減少具合は個人差が大きく、美容鍼灸としての強いエビデンスを得るには、さらなる研究が必要と言えるでしょう。

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構J-STAGE「鍼が顔面の皮膚に与える影響の研究2」

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構J-STAGE「肌状態に対する鍼治療と指圧療法の美容効果の調査」

また、別の論文では、鍼灸は肌の水分と油分に影響を与えると結論付けています。鍼灸施術は、肌の水分量と油分量を調整し、皮膚の保湿作用を促し、皮膚のうるおいに影響を及ぼすと考えられています。

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構J-STAGE「顔面部鍼施術が顔面部のうるおいに与える影響」

2-8. 冷え性

鍼灸は、何らかの基礎疾患が原因の冷え性に対して、施術10回目に60.9%の改善傾向が見られたと「冷え性に対する鍼灸治療の臨床的研究(第2報)」で報告されました。鍼灸刺激が人間の中枢神経系に作用することで、冷え性が改善されると考えられています。

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構J-STAGE「冷え性に対する鍼灸治療の臨床的研究(第2報)」

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構J-STAGE「冷え性に対する鍼治療の効果」

また、冷え性を自覚している若年女性を対象とした研究では、治療開始後3~4週目には冷え性の改善が見られるようになったと報告されました。鍼灸施術が自律神経へ影響し、血行の巡りの改善に効果を発揮すると考えられています。

出典:厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』「若年女性の冷え性に対する温筒灸治療の有効性評価」

3. 鍼灸施術の効果が出るまでに必要な期間は?

鍼の効果・灸の効果が出るまでに必要な施術期間は人によって異なり、早い人だと施術を受けた直後から効果を感じ、遅いと数日かかる場合もあります。鍼灸の効果の持続期間は、一般的に施術を受けてから1~2週間です。治療を繰り返す度に、鍼灸の効果の持続期間は延びていくとされています。

施術を開始した直後は、効果が続く時間が短い人が多いため、3~5回程度続けて通うことをおすすめします。自身の身体の状態が完全に悪くなる前に定期的に施術を受けると、前回より良い状態になり、体質改善を効率よく行うことが可能です。

まとめ

鍼灸のメカニズムとして、日本鍼灸師会や全日本鍼灸学会は、鍼の刺激によって免疫力の改善や自律神経活動の活発化が起こり、体質を改善すると提唱しています。ただし、鍼灸は臨床研究段階であり、体質改善に効果があるという強いエビデンスはまだ得られていません。

一方で、肥満や高血圧、不眠や免疫力低下、冷え性のほか、肩こりや眼精疲労、肌状態の悪化に対して、複数の臨床研究から一定の効果があるという報告がなされています。今後研究が進むにつれ、鍼灸の効果についての理解はより深まっていくでしょう。

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