マッサージ店を独立開業する方法は?開業成功のための注意点も解説
リラクゼーションサービスを提供するマッサージ店やエステサロン・リラクゼーションサロンといった施術所は、幅広い方からの需要が高く、今後も市場が縮小することはないと言われています。そのため、このような業界で長年働き続けたのち、「そろそろ独立開業をして自分のお店を経営したい」と考える方は多くいるでしょう。
しかし、マッサージ店の独立開業にはいくつかの条件があるだけでなく、きちんと準備をしてから開業しなければ失敗する可能性がある点に注意が必要です。
そこで今回は、マッサージ市場の現状から、マッサージ店を独立開業する方法、さらに開業を成功させるために注意しておくべきポイントまで詳しく説明します。
1.マッサージ市場の現状は?
矢野経済研究所が2022年に公表した調査結果では、2017年から2021年の5年間における柔道整復・鍼灸・マッサージ市場について、下記の通り示されていました。
2021年 | 9,680億円 |
---|---|
2020年 | 9,190億円 |
2019年 | 9,710億円 |
2018年 | 9,440億円 |
2017年 | 9,610億円 |
出典:株式会社 矢野経済研究所「柔道整復・鍼灸・マッサージ市場に関する調査を実施(2022年)」
最新データである2021年の柔道整復・鍼灸・マッサージ市場は9,680億円、前年比5.3%増という結果となっていました。2020年には新型コロナウイルス感染症によって一時的に柔道整復・鍼灸・マッサージ市場は縮小したものの、現在は回復傾向にあります。
また、柔道整復・鍼灸・マッサージ市場では、新しい働き方の拡大によって施術傾向に変化が見られます。液晶画面を長期間見たことによる肩こりや眼精疲労の施術、メンタルヘルスの悩みに応じた施術は新たなニーズであり、顧客獲得に有効です。また、美容を追求した施術の人気も拡大しています。
実際にJ-Net21が2017年に行った市場調査では、潜在需要は30代の男女、特に若い女性を中心に多く存在していることが判明しました。今後の柔道整復・鍼灸・マッサージ市場は、若い男女をメインターゲットとしたサービスの提供も求められると言えます。
2.独立開業にはあん摩マッサージ師の資格が必要?
医療行為としてのマッサージを行うマッサージ店を独立開業するなら、「あん摩マッサージ指圧師」という国家資格が必要です。あん摩マッサージ指圧師資格がない状態で医療行為として指圧やマッサージを業として行うことは違法行為であり、行政処分や刑事罰の対象となる可能性があります。
また、リラクゼーションエステやもみほぐしといった施術は、法的にグレーゾーンとされています。現状では、無資格でも施術を行うことは可能となっているものの、厚生労働省は無資格者によるあん摩マッサージ指圧業等の防止に努めているため注意が必要です。マッサージやマッサージに類似する行為を無資格で行うと処罰される可能性があります。
たとえ医療行為としてのマッサージを行わない施術所だとしても、あん摩マッサージ指圧師資格は顧客からの信頼を獲得するためにも重要です。そのため、医療行為を行うかどうかにかかわらず独立してマッサージ店を開業・運営したいのであれば、あん摩マッサージ指圧師資格の取得を強くおすすめします。
3.マッサージ店を独立開業する方法
マッサージ店の独立開業における最大のメリットは、「自身が経営者として思い通りの方向性で運営できる」という点です。意思決定の自由度が高く、ビジネスに関する知識やノウハウも得られます。また、成果をあげればあげるほど大きなリターンも得られ、やりがいを感じながら働き続けられる点も魅力と言えるでしょう。
では、マッサージ店を独立開業するには、どのような手順に沿って進めていけばよいのでしょうか。ここからは、マッサージ店における独立開業の流れを詳しく説明します。
3-1.事業計画を立て資金を調達する
マッサージ店の独立開業を検討した際は、事業計画を策定し、十分な資金を調達するところから始めましょう。
事業計画を立てる際に欠かせないものが、事業計画書です。まずは事業内容を明確にした上で、事業計画書に書き込んでいきましょう。頭の中で思い描いているビジネス構想を整理し、事業内容はもちろん目標まで具体化することも大切です。
しかし、浮かんだアイデアをすべて事業計画に盛り込んでいると一貫性に欠ける可能性もあるため、事業計画書を作成した後は再度全体を通してチェックし、つじつまの通った内容となっているかどうかを確認するとよいでしょう。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構J-Net21「事業計画書はなぜ必要か」
事業計画書を作成した後は、事業計画に沿って開業する場合に必要となる資金を調達します。一般的に、マッサージ店の独立開業において必要な資金は約300万~500万円と言われています。また、開業直後は売上・利益が安定しないため、数か月分の運転資金も必要です。
手元に十分な自己資金がない場合は、民間の金融機関や日本政策金融公庫から融資を受けることも1つの手段です。
3-2.出店する物件を決める
事業計画書の作成とある程度の必要資金の準備が済んだ後は、ある程度決まった開業エリアから出店する物件を決定しましょう。
マッサージ店の開業形態は、大きく「自宅型」「店舗型」「出張型」の3つに分類できます。
自宅型は名前の通り自宅サロンとして開業するものであり、賃料を抑えられるというメリットがある一方で、立地によっては集客に苦労する可能性があることに注意が必要です。加えて、居住用契約で借りている賃貸物件は開業できないことも覚えておきましょう。
また店舗型の場合、集客に有利な立地を選べる一方で、初期費用や賃料が高額です。そして訪問マッサージメニューを提供する出張型の場合、店舗を構える必要がないため賃料等に関しては最も抑えられるものの、集客も難しくなります。
このように、各形態にはメリット・デメリットがあります。それぞれの特徴と自身が開業するマッサージ店のサービス内容や方向性を踏まえ、適切な出店形態を選択しましょう。
3-3.自治体に適切な申請をする
マッサージ店を開業する際は、営業許可の申請や衛生管理の届出などを行う必要があります。
営業許可の申請とは、名前の通りマッサージ店を開業し、営業を行うために所在地の都道府県や市町村から必要な許可を得るための申請のことです。届出書のほか店舗の設備図面、さらに登記簿謄本といった書類が必要となります。
衛生管理の届出は、所在地の保健所に対して行う手続きです。施設名や責任者名といった基本情報から提供サービスの内容や方法、さらに感染症予防についての取り組みを記載した届出書を提出する必要があります。
また、あん摩マッサージ指圧師資格やはり師・きゅう師資格の保有者がマッサージ店を開業する場合は、事業開始から10日以内に管轄の保健所へ「施術所開設届出書」も提出しなければなりません。
出典:国立障害者リハビリテーションセンター「マッサージ室の開設に当たって注意事項」
ただし、店舗を持たず、出張型のメニューのみを提供する業態の場合は、「施術所開設届出書」の代わりに「出張業務開始届」の提出が必要になります。また、店舗の設備図面などを提出する必要はありません。
出典:東京都福祉保健局「施術所(あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう、柔道整復)の開設等」
なお、開業から1か月以内に管轄の税務署へ開業届を、2か月以内に青色申告承認申請書を提出すれば、青色申告ができるようになります。青色申告であれば控除額が最大65万円になるなど大きな節税効果を得られるため、なるべく早い段階で準備しておきましょう。
3-4.内装や什器をそろえる
出店する物件が決定し、開業に必要な手続きが済んだ後は、内装や什器をそろえていきましょう。
マッサージ店の内装は、各都道府県・保健所で定められた「施術所の構造設備基準」を満たす必要があります。例として、東京都多摩府中保健所が定めている構造設備基準を下記に紹介します。
構造設備基準
- 6.6平方メートル以上の専用の施術室を有すること
- 3.3平方メートル以上の待合室を有すること
- 施術室は、室面積の7分の1以上に相当する部分を外気に開放し得ること(ただし、これに代わるべき適当な換気装置があるときはこの限りではない)
- 施術に用いる器具、手指等の消毒設備を有すること
衛生上の必要な措置
- 常に清潔に保つこと
- 採光、照明及び換気を充分にすること
引用:東京都福祉保健局「施術所の構造設備基準等について」/引用日2023/4/17
上記のような構造設備基準を満たすためには、リフォームが必要となるケースもあります。内装工事費をなるべくおさえたいという場合は、居抜き物件を選んでおくとよいでしょう。
また、マッサージ店の開業において必要となる什器は、診察台や上下肢台といった医療機器から、電話機・FAX、コピー機といった電気製品、さらに消毒用品やぞうきんなどの衛生用品まで多岐に及びます。開業時は非常に多くの備品が必要となるため、あらかじめ購入リストを作成しておくなどして抜け・漏れを防ぎましょう。
3-5.集客のためプロモーションを行う
オープン準備が整ったら、いよいよ集客に向けたプロモーションを行います。
特によく選ばれる集客手段には、下記が挙げられます。
- 近隣へのチラシ配布
- ポータルサイトへの掲載
- Google広告の出稿
- SNS・ブログでの情報発信
SNS・ブログでの情報発信は比較的コストのかからない宣伝方法となるため、ほかの集客と組み合わせながら行うこともポイントです。
また、集客に向けたプロモーションを実施する際は、あはき法による広告規制に注意しなければなりません。あはき法では、広告表現について効果が保証されていると明示したり、医療行為と混同されるような表現をしたりすることが禁じられています。
広告表現の適法性をチェックするためには、専門家に相談することもおすすめです。
4.マッサージ店の開業に成功するための注意点
マッサージ店の独立開業を成功させるためには、下記2点のポイントに注意しておく必要があります。
●開業までに十分に信頼と技術を積み上げておく
マッサージ店の開業前には、お客様からの信頼を得るために経験を積み、十分な信頼と技術を習得しておく必要があります。実務での経験だけでなく、研修や実習といった機会を積極的に活用することもおすすめです。
●競合と差別化できるサービスを提供する
マッサージ業界は競合が多いため、差別化されたサービスの提供が重要となります。新たな技術やトレンドのサービスに積極的に取り組むだけでなく、店舗の内装や雰囲気までも工夫を凝らして独自性を打ち出すことで、さらなる差別化を図ることが可能です。
まとめ
2020年、新型コロナウイルス感染症の影響によりマッサージ市場は一時縮小しましたが、現在は回復傾向にあり、今後も安定した需要が見込める業界と言えるでしょう。
独立してマッサージ店を経営するためには、さまざまな開業準備と多額の開業資金が必要です。加えて、開業後にも行わなければならない手続きがあるため、直前になって慌てないためにもあらかじめ計画立てて行動することをおすすめします。
また、十分な信頼と技術を積み上げたり、競合との差別化を図ったりすることも、マッサージ店開業を成功させるために欠かせないポイントです。ここまでの内容を参考に、ぜひマッサージ店の開業を進めてみてください。
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