鍼灸師は生活できない・後悔するって本当?鍼灸師の魅力も解説
高齢者や、ストレス・生活習慣病などに悩む方なども増加している中、鍼灸は自然治癒力を高める手法として注目されています。西洋医学に頼るだけでなく、身体のバランスを整える東洋医学のアプローチは、日本人にも合っている手法です。
鍼灸師(はり師・きゅう師)は国家資格であり、毎年多くの人がはり師国家試験・きゅう師国家試験を受けています。しかし、中には「鍼灸師は生活できないからやめておいたほうがいい」と聞いて、不安になっている方もいるのではないでしょうか。
当記事では、「鍼灸師は生活できない」と言われる理由と、果たしてそれが本当なのかどうかについて、詳しく解説します。
1.鍼灸師は生活できない・後悔する・やめとけと言われる理由
鍼灸師は、鍼(はり)や灸(きゅう)という方法を用いて、人の身体に対する治療を行う職業です。鍼灸師は社会的意義の大きい仕事の1つですが、中には「鍼灸氏は生活できない」「鍼灸師になったら後悔するからやめとけ」といったネガティブな意見を聞いたことがある人もいるでしょう。
ここでは、その主な理由を4つ紹介します。
1-1.年収が低い
日本全体の平均年収は2021年時点で443万円です。
一方で、鍼灸師の平均収入も約443万円というデータがでており、統計上は日本人の平均年収と同等の額を得られることが分かります。
【鍼灸師の平均収入】
平均月給 | 平均賞与 | 平均年収 |
---|---|---|
約31.3万円 | 約67.6万円 | 約443万円 |
そのため実は「鍼灸師は年収が低い」とは一概には言えません。しかし、年収が低いと感じてしまう理由として、施術所ごとに待遇が異なる点が挙げられます。鍼灸院・整骨院は、規模が小さい場合も多く、中小規模の治療院だと、お給料はどうしても低くなります。
もし現在の年収が低いことに悩む場合は、転職を行うのも一案でしょう。
1-2.一般的なビジネススキルが身につかない
鍼灸師は専門職なので、鍼灸師としての技術は着実についていきます。一方で、オフィスワークの方が持っているようなビジネススキルやパソコンスキルは身につけにくい職種です。鍼灸師としてキャリアを築いていく分には問題ないですが、異業種への転職を検討する場合は、慣れるまで大変になることがあるでしょう。
一方で、現在では鍼灸専門学校でキャリア教育などが行われることも多く、自分次第でビジネススキルを身につけることも可能です。
1-3.卒業後すぐに施術を担当できない
かつて鍼灸師の世界では、徒弟制度が普通であり、施術ができるまでに修業期間を経る必要がありました。修業期間中は、待遇が低いことが一般的で、経済的に苦しかったりプロとして独立できるのか不安に感じたりする人も少なくありませんでした。また、独立開業が目指すべきゴールのような風潮もどこかあったでしょう。
しかし時代は変わり、現在では日本全体の労働環境がよくなってきています。鍼灸師業界も同様であり、徒弟制度を採用している鍼灸院や整骨院は減少しています。また、現代の医療系の職業と同様に、新人鍼灸師も研修期間を経て施術を担当することが一般的です。
現在の鍼灸師の研修期間は、実際の施術に必要な技術や知識を深めるための大切な時間となり、質の高い施術を早期に提供するための土台を築けます。
1-4.長時間労働する場合がある
労働基準法において、使用者(雇っている会社)は、原則として1日に8時間・1週間に40時間を超えて労働させてはなりません。鍼灸師も雇われている場合は、この原則に則ります。
しかし実際は、患者の都合や治療の必要性、シフト関係の影響で、職場の拘束時間が1日に8時間を大きく超えることもあるでしょう。時には1日に10時間以上の長時間労働をすることも珍しくありません。
しかし、すべての鍼灸師が長時間労働を強いられるわけではなく、勤務先によっては9時から18時までの勤務となるような職場も存在します。そのため、鍼灸師としてキャリアを築く際には、拘束時間や労働環境を考慮して、自分に合った就職先を選ぶことが大切です。
また、独立開業をすると労働時間の制限はなくなります。そのため、よい意味でも悪い意味でも自分の裁量で働くことが可能です。
2.それでも鍼灸師がおすすめの理由
「鍼灸師は生活できない、後悔する」と言われるケースもありますが、それでも鍼灸師は人の身体の不調を治療・緩和させる、需要の高い職業です。
以下では、鍼灸師として働くメリットや意義を解説します。
2-1.需要が高く将来性がある
高齢者が増えている日本では、鍼灸師の需要は今後も明るいと言えます。
特に鍼灸師は、鍼灸院や整骨院だけでなく、機能訓練指導員としての活動やスポーツ鍼灸の分野でも活躍できます。アスリートたちは、けがの予防やリハビリ、パフォーマンス向上のために鍼灸を取り入れることもあり、スポーツ関連の現場での鍼灸師の需要も高まっている状況です。
また、最近では「美容鍼灸」も注目を集めており、男性・女性問わず、美肌を目指したい方や、しわ・たるみなどにアプローチしたい方などから需要があります。
2-2.スキルによっては高収入を得られる
鍼灸師は、技術や経験、知識の深さによって収入の差が生まれやすい職業です。
特に、独自の治療法や専門的な技術を持つ鍼灸師は、スキルが高く評価され、多くの患者さんからの信頼を得られます。最近では、SNSでのマーケティングに力を入れて、インフルエンサー的要素も兼ね備えた鍼灸師も増えています。患者さんから信頼されている鍼灸師は、安定した収入を得られるため、高収入につながりやすいです。
さらに、はり師・きゅう師やあん摩マッサージ指圧師の国家資格は、独立開業が可能な資格にあたります。独立開業にはリスクも伴いますが、成功すれば雇われて働くよりも、より高収入を得るチャンスが広がります。実際、独立して成功を収めている鍼灸師の中には、月収50万円以上を獲得している方も一定数存在します。
2-3.海外市場が大きくなっている
鍼灸師は、日本だけでなく海外で活躍することも可能です。鍼灸師を目指す上で、海外市場の拡大は、キャリアの多様性や収入の向上、新しいビジネスチャンスを得る上では、大きなメリットです。
たとえば、アメリカの鍼灸市場は近年急速に成長しており、その年平均成長率は16.3%にも上ります。また、2032年には市場規模が1,400億米ドルを超えると言われています。
出典:Persistence Market Research「Global Acupuncture Treatment Market: Industry Trend Analysis & Forecast」
また、実際にアメリカでの鍼灸師の収入において、上位25%の平均年収は10万270米ドルと、1,000万円を超えています。
アメリカのような高い成長率を持つ市場は、鍼灸師としてのキャリアを築く上で大きな追い風と言えるでしょう。開業までの困難・大変さはもちろんありますが、日本の鍼灸師市場に不満を感じる場合は、アメリカでの開業も選択肢の1つとなります。
2-4.人から感謝される
鍼灸師は、患者の身体の不調や痛みを和らげるだけでなく、患者さんの生活の質を向上させる役割を果たします。治療を通じて、患者さんの日常生活がより快適になれば、大きな感謝をされるでしょう。
また、鍼灸師は医療職の1つである以上、患者さんとのコミュニケーションが大切な職業です。治療の過程で、患者さんの身体や心の状態を深く理解し、それに応じた鍼灸治療を提供することで、患者さんとの信頼関係を少しずつ築けます。信頼関係が深まれば、患者さんからの感謝の言葉や行動に対して、鍼灸師としてのやりがいや達成感をより感じられるでしょう。
3.鍼灸師に向いている人の特徴
鍼灸師に向いている人の特徴として、以下の3つの特徴が挙げられます。
・コミュニケーション能力が高い
鍼灸師は患者さんの症状や不調、生活習慣などを詳しく聞き取る必要があります。また、治療の内容や効果を適切に伝えることで、患者さんの不安を和らげたり、信頼関係を築けたりします。そのため、高いコミュニケーション能力が不可欠です。
・学習意欲が高く勉強が好き
鍼灸の技術や知識は日々進化しており、最新の治療法や研究結果を学び続けることで、より質の高い治療を提供することができます。また、患者さんの症状や体質に合わせて最適な治療法を選択するためには、幅広い知識が必要です。
・手先が器用で観察力がある
鍼や灸を正確に施すためには、繊細な手の動きや技術が求められます。患者さんの身体の変化や反応を正確に捉えるための観察力も必要です。たとえば、皮膚の色や温度、筋肉の緊張状態などを観察することで、患者さんの身体の状態を的確に把握し、適切な治療を行えます。
まとめ
鍼灸師に対して「年収が低いと思われやすい」「長時間労働である」といったイメージを持つ人は一定数います。また、それが原因で「鍼灸師になっても生活できない」と言われることがあります。しかし実際は、鍼灸師として生活している人はたくさんおり、平均年収も日本の給与所得者平均と同程度です。
患者さんは鍼灸治療を受けることで、身体の内側からの回復や健康の向上を実感できます。特に、長期間にわたって痛みや不調に悩んでいた患者さんが、鍼灸治療を受けることでその症状が和らいだときには、大きな感謝をされるでしょう。
人から感謝される仕事は社会的意義も高く、鍼灸師はこれからも魅力的な職業であり続けるでしょう。
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