鍼灸師国家試験の合格率・難易度とは|試験内容や勉強方法も解説

鍼灸師国家試験の合格率・難易度とは|試験内容や勉強方法も解説

鍼灸師になるためには、国家試験に合格する必要があります。しかし、「鍼灸師国家試験」というものはなく、厳密には「はり師国家試験」「きゅう師国家試験」の2つの試験に合格して初めて鍼灸師として活躍することが可能です。

2つの国家試験を受けると聞いて、難易度が高いのではと感じる方も多いでしょう。しかし、はり師・きゅう師国家試験の試験科目はほとんどが共通しており、いずれか一方の試験を受ければもう一方の一部科目が免除されるなど、単純に異なる2つの国家試験を受けるよりも難易度は低いと言えます。

今回は、鍼灸師国家試験(はり師・きゅう師国家試験)の概要と受験資格から、合格率・難易度、試験内容、さらに効率的な勉強方法まで詳しく解説します。

1.鍼灸師国家試験(はり師・きゅう師国家試験)とは

鍼灸師国家試験とは、「はり師国家試験」と「きゅう師国家試験」の総称です。つまり、鍼灸師国家試験は鍼灸師になるための資格試験の正式名称ではありません。鍼灸師として活躍するためには、正式にははり師国家試験ときゅう師国家試験の2つに合格しなければならないことを覚えておきましょう。

また、2つの国家試験に合格しなければならないとは言っても、ほとんどの試験科目は共通しています。加えて、「はり理論」または「きゅう理論」以外は共通科目となるため、一方の試験で科目免除となります。

なお、鍼灸師国家試験の試験会場は下記の通りです。

北海道・宮城県・東京都・新潟県・愛知県・大阪府・広島県・香川県・福岡県・鹿児島県・沖縄県
※視覚障害者のみ各都道府県で受験可能

試験日はいずれも毎年2月下旬の同日にて、年に一度実施されます。

出典:厚生労働省「はり師国家試験の施行」

出典:厚生労働省「きゅう師国家試験の施行」

1-1.鍼灸師国家試験の受験要件

鍼灸師国家試験を受験するためには、文部科学大臣が認定した学校や、厚生労働大臣または都道府県知事が認定した養成施設において、はり・きゅうに関する3年間以上のカリキュラムを修了する必要があります。この受験要件を満たしていない方は、はり師・きゅう師国家試験を受けることができません。

鍼灸についての専門スキル・技能を学べる学校では、基本的にはり・きゅうに関するカリキュラムを同時に進められます。そのため、卒業時には両方の受験要件を満たせている状態となります。

2.鍼灸師国家試験の合格率と難易度

鍼灸師国家試験の受験を目指す方にとって気になる点が、試験合格率・難易度でしょう。

2023年2月に実施された「第31回はり師・きゅう師国家試験」の合格率は、下記の通りです。

国家資格名 受験者数(人) 合格者数(人) 合格率(%)
はり師 4,084 2,877 70.4
きゅう師 4,010 2,875 71.7

出典:厚生労働省「第31回あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師国家試験の合格発表について」

はり師・きゅう師ともに受験者数と合格者数に大きな違いはなく、いずれも合格率は70%を超えています。この結果から、鍼灸師国家試験の全体的な難易度は決して高くはないものの、誰もが簡単に合格できるほど容易い試験ではないということも分かるでしょう。

また、鍼灸師国家試験の配点はいずれも1問1点で合計170点満点とされており、102点(正答率60%)以上が合格ラインとなります。

はり師及びきゅう師国家試験は、配点を1問1点、それぞれ合計170点満点とし、102点以上の者を合格とする。

引用:厚生労働省「第31回あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師国家試験の合格発表について」引用日2023/7/7

なお、2020年に実施された試験までは、150点満点中90点以上が合格基準となっていました。合格ラインとなる正答率は60%と変化はないものの、問題数が多くなったことから難易度にも少なからず影響することも覚えておきましょう。

2-1.鍼灸師国家試験の合格率の推移

過去5年間における鍼灸師国家試験合格率(全国平均)の推移は、下記の通りとなっています。

試験年 はり師試験の合格率 きゅう師試験の合格率 合格点数
2019年 76.4% 78.5% 90点(150点満点)
2020年 73.6% 74.3% 90点(150点満点)
2021年 70.0% 72.2% 102点(170点満点)
2022年 74.2% 76.1% 102点(170点満点)
2023年 70.4% 71.7% 102点(170点満点)

出典:厚生労働省「第31回あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師国家試験の合格発表について」

出典:厚生労働省「第30回あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師国家試験の合格発表について」

出典:厚生労働省「第29回あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師国家試験の合格発表について」

出典:厚生労働省「第28回あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師国家試験の合格発表について」

出典:厚生労働省「第27回あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師国家試験の合格発表について」

2021年に実施された鍼灸師国家試験より新たな合格基準が設けられたものの、合格率は70%以上と大きな変化は見られません。たとえ出題数が増加しても、学校や養成施設でしっかりと授業を受け、かつ国家試験対策に徹していれば問題なく合格できるでしょう。

3.鍼灸師国家試験の試験内容

鍼灸師国家試験は、四肢択一によるマークシート式の筆記試験のみとなるものの、試験科目は全13~14科目と出題範囲が広くなっています。しかし、はり師国家試験ときゅう師国家試験の科目は下記のようにほとんどが共通しており、同時受験の場合のみいずれか一方の共通科目は免除されます。

共通科目
はり師・きゅう師
  • (1)医療概論
  • (2)衛生学・公衆衛生学
  • (3)関係法規
  • (4)解剖学
  • (5)生理学
  • (6)病理学概論
  • (7)臨床医学概総論
  • (8)臨床医学各論
  • (9)リハビリテーション医学
  • (10)東洋医学概論
  • (11)経路経穴概論
  • (12)東洋医学臨床論
専門科目
はり師 (13)はり理論
きゅう師 (14)きゅう理論

同時受験の場合は14科目180問で、試験時間は4時間です。長時間となるため、午前と午後に分けて試験が実施されます。

3-1.過去の試験問題と解答

ここでは、過去の鍼灸師国家試験において出題された試験問題と回答を紹介します。どのような問題が出題されるかの参考にしてください。

問題 1 医療・福祉施設において、医師を常勤させる義務がないのはどれか。

  • 1.介護療養型医療施設
  • 2.介護医療院
  • 3.介護老人保健施設
  • 4.介護老人福祉施設

問題 11 あはき法で、あん摩マッサージ指圧師が医師の同意を得て実施できるのはどれか。

  • 1.エックス線撮影
  • 2.外科手術
  • 3.薬品の投与
  • 4.脱臼患部への施術

問題 30 視覚の受容器で主に色の識別にかかわるのはどれか。

  • 1.錐体細胞
  • 2.杆体細胞
  • 3.色素細胞
  • 4.神経節細胞

引用:公益財団法人東洋療法研修試験財「第31回午前問題」引用日2023/7/7

問題 85 脱水状態はどれか。

  • 1.気 虚
  • 2.血 瘀
  • 3.津 傷
  • 4.水液停滞

問題 110 次の文で示す患者の罹患局所に対するマッサージの手技として最も適切なのはどれか。

「24 歳の女性。慣れないハイヒールで長時間歩いたため足底伳膜が張り、足を着くのがつらくなった。」

  • 1.指䌮軽擦法
  • 2.環状叩打法
  • 3.双手揉捏法
  • 4.牽引振せん法

問題 152 マッサージの手技について正しいのはどれか。

  • 1.基本手技に運動法が含まれる。
  • 2.遠心性に行う。
  • 3.主に一点圧の刺激を行う。
  • 4.滑剤を用いる。

引用:公益財団法人 東洋療法研修試験財「第31回午後問題」引用日2023/7/7

なお、上記に示した各問題の正答は下記の通りとなっています。

  • 問題1:4
  • 問題11:4
  • 問題30:1
  • 問題85:3
  • 問題110:1
  • 問題152:4

出典:公益財団法人 東洋療法研修試験財「第31回 あん摩マッサージ指圧師国家試験 正答肢表」

4.国家試験の効率的な勉強方法

はり師・きゅう師の国家試験合格率は70%以上であり、難易度は決して高くありません。

ただし裏を返せば、大学や専門学校などで3年を超える学習期間を経て基礎知識や技術を習得してもなお、4人に1人程度は落ちているということとなります。このことから、学校に通っているからと言って簡単に合格できるわけではないということも分かるでしょう。

また、国家試験を受ける際はすでに資格取得のていで就職活動を始めており、なかには就職先が決まっているという方もいます。しかし、国家試験に落ちると当然鍼灸師資格は得られず、場合によっては内定取り消しとなってしまう可能性もゼロではありません。

確実な合格を目指すには、効率的に勉強することが大切です。最後に、鍼灸師国家試験に向けた効率のよい勉強方法を2つ紹介します。

4-1.過去問を繰り返し解く

鍼灸師国家試験は毎年異なる問題が出題されるものの、過去に出題されていた問題も多く出てきます。また、ひっかけ問題のような問題も出題されるため、傾向をおさえるためにも過去問を繰り返し解くことが大切です。

過去問を繰り返し解く際は、正解・不正解に限らず何周も解くだけでなく、自分なりの解説をノートに書きこむこともおすすめです。また、何度か不正解となった苦手問題は、克服するためにもより多めに解いておきましょう。

鍼灸師国家試験の過去問題は、鍼灸師資格の発行元である公益財団法人 東洋療法研修試験財団の公式ホームページにおいて公開されています。公開範囲は過去5年分の試験問題であり、十分な試験対策ができるでしょう。

4-2.問題数が多い科目や苦手な科目に集中する

鍼灸師国家試験の合格率を高めるためには、問題数の多い科目と苦手な科目に集中して解くこともおすすめです。

鍼灸師国家試験では、あらゆる試験科目から広範囲にわたって出題されます。そのなかでも、「臨床医学各論」「東洋医学概論」「経絡経穴概論」「東洋医学臨床論」の出題数は比較的多いことも特徴です。したがって、これらの科目を集中的に勉強するとよいでしょう。

勉強時間を割くべき試験科目としては、問題数の多い科目だけでなく苦手科目も挙げられます。なお、苦手科目を勉強するときも、なるべく出題数の多い科目から優先して勉強することをおすすめします。

まとめ

鍼灸師として活躍するためには、はり師国家試験ときゅう師国家試験の2つの試験に合格する必要があります。これら2つの国家試験は、総称して「鍼灸師国家試験」とも呼ばれます。

鍼灸師国家試験の合格率は例年70%を超えており、難易度は決して高くありません。しかし、3年間鍼灸師学校に通ってもなお4人に1人が不合格となっていると考えると、試験勉強の大切さが理解できるでしょう。

鍼灸師国家試験の確実な合格に向けて効率よく勉強するなら、「過去問を繰り返し解くこと」「問題数の多い科目・苦手科目に集中して解くこと」が大切です。ここまでの内容を参考に、ぜひ鍼灸師国家試験の一発合格を目指してください。

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