鍼灸師として海外で働くには?必要な資格や収入・需要などを解説
鍼灸治療は起源を中国に持ち、世界各国で異なる形で発展してきました。
例えば日本の鍼灸師は専門的な教育を受け、国家資格を取得した上で鍼灸のみを行いますが、中国では中医師が鍼灸治療のほかに漢方薬や西洋医学の治療を併用しています。鍼灸治療の普及度も国によって異なり、中国では病院で行われることが多く、日本では専門の治療院で行われることが一般的です。
当記事では、海外諸国の鍼灸事情や需要について、詳しく解説します。
1. 海外における鍼灸師の需要はどのくらい?
慢性疼痛、神経痛、不眠症、ストレスなど、西洋医学では治療が難しい症状に対して、鍼灸が効果を示すことがあるため、海外でも鍼灸への注目が高まっています。
以下では、海外における鍼灸師の需要がどの程度あるのか解説します。
1-1. 世界鍼灸学会連合会の加盟数
世界鍼灸学会連合会(World Federation of Acupuncture-Moxibustion Societies)の公式サイトによれば、世界鍼灸学会連合会には54か国258の団体が加盟しています。
国ごとの加盟団体数は以下の通りです。
国名 | 加盟団体数 |
---|---|
アメリカ | 19 |
メキシコ | 4 |
カナダ | 20 |
ドミニカ | 1 |
ブラジル | 24 |
アルゼンチン | 8 |
チリ | 1 |
ボリビア | 1 |
コロンビア | 2 |
ベネズエラ | 2 |
エクアドル | 1 |
ペルー | 1 |
スリナム | 1 |
イギリス | 7 |
ロシア | 9 |
フランス | 8 |
イタリア | 7 |
ドイツ | 5 |
ポルトガル | 4 |
スロベニア | 3 |
ハンガリー | 3 |
トルコ | 2 |
スペイン | 12 |
ベルギー | 5 |
フィンランド | 1 |
スイス | 5 |
スウェーデン | 3 |
アイルランド | 2 |
ノルウェー | 2 |
ポーランド | 3 |
オーストリア | 1 |
ウクライナ | 3 |
セルビア | 1 |
オランダ | 5 |
モンテネグロ | 1 |
ギリシャ | 2 |
南アフリカ | 3 |
モーリシャス | 1 |
エジプト | 2 |
タイ | 4 |
韓国 | 10 |
中国 | 16 |
フィリピン | 4 |
インド | 4 |
マレーシア | 9 |
シンガポール | 3 |
日本 | 4 |
インドネシア | 4 |
イラン | 4 |
朝鮮民主主義人民共和国 | 1 |
ベトナム | 1 |
イスラエル | 1 |
オーストラリア | 5 |
ニュージーランド | 3 |
出典:World Federation of Acupuncture-Moxibustion Societies「Member Societies」
1-2. 海外でも特にアメリカで需要が高い
アメリカでは近年、伝統医療に加え、代替医療への関心が高まっています。特に鍼治療は、痛み管理、ストレス軽減、全体的なウェルネスの改善など、多くの健康問題に対し、自然で副作用が少ないアプローチとして評価されている手法です。
また、アメリカはオピオイド危機が大きな問題となっており、痛みの管理に関してより安全な代替手段が求められています。鍼治療は、薬物依存のリスクなしに慢性痛を管理する効果的な手段として認識されているため、この問題への解決策の1つとして注目されています。
1-3. 鍼灸はWHOによって伝統医療として認定されている
2018年に鍼灸は、WHOによって伝統医療の一部として認定されました。
具体的には、WHOの国際疾病分類の第11版に伝統医学の章が新たに加わりました。鍼灸を含む伝統医学が世界的に認知され、その臨床的エビデンスの確立に向けた大きな一歩とされています。
この改訂により、西洋医学だけでなく、東アジアの伝統医学にも基づいた病態分類が可能となり、双方の医学が補完し合う形で用いられるようになりました。鍼灸を含む漢方医学が、国内外での研究や臨床の進展に貢献するだけでなく、広範囲にわたる健康維持や疾患治療の選択肢として認識されるきっかけの1つになっています。
また、このような国際的な枠組みの中での認定は、鍼灸の施術がより統一された基準で評価され、各国での専門的な実践が促進されると期待されています。
2. 鍼灸師として海外で働くために知っておきたいこと
鍼灸師として働くための就労ビザの取得条件は国によって異なります。長期的に働く場合は、永住権の取得も検討する必要があるでしょう。また、現地での生活や利用者とのコミュニケーションに必要な語学力を身につける必要があります。
以下では、鍼灸師として海外で働くために最低限知っておきたいことを2つ解説します。
2-1. 国によって鍼灸師資格の取り扱いが異なる
例えば、アメリカでは州ごとに異なる免許制度があり、その州で免許を取得しなければなりません。また、中国では、基本的には中医師免許の取得と医師登録が必要です。
ドイツやフランスでは、主に医師や助産師のみ施術が許可されているケースがほとんどとなっています。イギリスでは、国家資格がないので民間資格が主流となっています。
オーストラリアでは2012年7月に国家資格となり、AHPRA(Australian Health Practitioner Regulation Agency)に登録が必要です。ニュージーランドでは就労ビザがあれば、日本の国家資格を取得している鍼灸師として働けます。
このように、国によって鍼灸師資格の取り扱いが異なるので、自身が働きたい地域の規定をしっかりと調べる必要があります。
2-2. 海外で働く鍼灸師の収入
海外で働く鍼灸師の収入も、国によってまちまちです。
例えばアメリカの鍼灸師の平均年収は、1米ドル=150円とすると約1,077万円です。ただし、物価差を考慮すると、おおよそ540万~640万円の範囲と考えられます。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
3. 海外諸国の鍼灸事情
鍼灸事情や鍼灸の広まりの歴史は、国によってそれぞれ異なります。
例えば、カナダでの鍼灸は、初期の中国移民によって持ち込まれた後、徐々に広まりを見せてきました。特に、モントリオールのケベック鍼灸協会が設立されたことで、カナダでの鍼灸が発展していきました。
以下では、海外諸国の鍼灸事情をいくつか紹介します。
3-1. ヨーロッパ諸国の鍼灸事情
ヨーロッパ諸国の鍼灸事情として、ここではドイツの例を紹介します(ただし、2008年のデータです)。
ドイツでは、鍼治療を合法的に行えるのは医師とハイルプラクティカー(自然療法を扱う特別な資格を持つ医療従事者)のみで、特定の状況下であれば助産師による妊婦への鍼治療が可能です。日本の鍼灸師資格を持つ場合は、書類審査が通れば、ハイルプラクティカーになれる可能性があります。
鍼灸が広く受け入れられている背景には、ドイツにおける自然療法への関心の高さがあります。また、鍼治療は公的保険によってもカバーされることが多く、利用者は診療後に直接費用を支払う必要がない場合がほとんどです。これにより、さまざまな人が比較的容易に鍼治療を受けられます。
イタリアやフランスの鍼灸事情については、以下のリンクもぜひ参考にしてみてください。
3-2. 北米・南米諸国の鍼灸事情
カナダでは、鍼灸師として活動するためには、州ごとに異なる資格が必要で、多くの場合、公的保険による保障が提供されています。
1980年代には、鍼灸が西洋医学の一部ではないとされ、適法な博士課程を修了した者はドクターの肩書きを使用できるようになるという裁判所の決定が下されました。これは、カナダ中医鍼灸協会(CMAAC)の設立につながり、後にオンタリオ鍼灸専門家協会を傘下に収め、国際的な認知と連携を深めることに成功しました。
アルゼンチンにおいても、東洋手技療法への関心が高まっており、それに伴い施術を求める人も増加しています。鍼灸の施術法が広まった背景には、特に中国からの影響が大きいとされ、多くの医師が鍼灸を学ぶために中国へ渡り、帰国後にその技術を広めるという流れがあります。
アルゼンチンの法律では、鍼治療は医師に限られて行われており、医師以外の実施は基本的にできません。しかし、外国の資格を持つ者が鍼灸を行う場合には、特定の条件下で許可されることがあります。実際、医師と共同での開業や医師の名前を借りた営業などが行われています。
3-3. アジア・オセアニア諸国の鍼灸事情
中国は鍼灸のイメージが強いですが、実は中薬のほうが一般的に使用されています。特に若い人に対しては、そこまで鍼灸治療が広まっていません。
また、中国には鍼灸学校がなく、中医薬大学・中医学院の中に鍼灸学科があります。病院実習を終えた後の合格率は高いものの、中医師免許を活用したほうが就職しやすいため、鍼灸師を選ぶ人は少数派です。
オーストラリアでは鍼灸が健康管理の一環として認識されつつあり、民間保険を通じてその利用が広がっています。しかし、公的保険制度にはまだ取り入れられていないのが現状です。
まとめ
鍼灸は、慢性的な痛み(腰痛、肩こり、関節痛など)や急性的な痛み(捻挫、打撲など)の軽減に効果が期待できます。WHOによって伝統医療として認定されたこともあり、海外でも鍼灸は急速に広まっています。
鍼灸に関する法律や規制は国によって異なるため、もし海外で働きたいと考える場合は、現地の規則をしっかり確認するようにしましょう。例えばオーストラリアでは、鍼灸師は各州の衛生局によって設定された規則に従う必要があります。
これから鍼灸師として活躍したいと考えている方は、海外での活動も視野にいれてみてはいかがでしょうか。
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