めざせ!鍼灸師と柔道整復師のダブルライセンス

鍼灸師として活躍している人の中には柔道整復師の資格の両方を持っている人がたくさんいます。特に、鍼灸師として独立開業を考えている場合はダブルライセンスにしておくと仕事の幅が大きく広がるでしょう。鍼灸師だけでは対応できない患者も柔道整復師の資格を持っていることで対応できるようになります。開業している人にとって対応できる患者が増えることは大きなメリットです。そこで、今回は鍼灸師と柔道整復師のそれぞれの基礎知識と、ダブルライセンスの魅力やメリットについて解説します。

 

☆鍼灸師って?

鍼灸師とは、鍼や灸を使って人間が本来もっている自然治癒力を高めて病気や症状を改善したり予防する人のことです。一般的に「鍼灸師」という言葉が使われていますが、「鍼灸師」という資格があるわけではありません。「はり師」と「きゅう師」の両方の国家資格を持っている人を「鍼灸師」と呼んでいます。鍼灸師が扱うのは鍼や灸と呼ばれる道具で、病院で行われるような外科手術や投薬治療は行いません。約0.2mm~0.3mmの非常に細い鍼を体に刺すことによって、血行の流れを良くしたり免疫力をあげたりする治療を行います。鍼灸師が行う治療の基礎は東洋医学の考え方です。一方、一般的な病院で行われる治療は西洋医学を基礎としているので、病気に対する考え方が大きく異なります。東洋医学では「気・血・水」の3つのバランスが崩れたときに病気が起こるとされています。「気」とは「気合」や「気力」というときの「気」です。「血」とは全身をめぐる血流や血行をさし、「水」とは「血」以外の水分やリンパの流れをさします。この3つのバランスを元に戻し、自然治癒力や免疫力を高めることで病気を治します。これに対して、西洋医学では「病気の原因を科学的に解明し、薬や手術で取り除く」という考え方が基本です。したがって、「病気が起こってから、その原因を取り除く」というアプローチになります。一方、東洋医学では、気・血・水のバランスが乱れている箇所を元に戻したり乱れないように予防するアプローチをとります。したがって、対処療法だけでなく予防医学の考え方も含んでいるのが鍼灸師の行う治療です。鍼灸師は人間の体に存在する300以上の「ツボ」の場所とそこを刺激したときの効果を頭に入れています。東洋医学で「ツボ」とは「多くの気が流れている場所」とされています。このツボを鍼で的確に刺激することによって気の流れだけでなく血やリンパの流れを改善することが可能です。

 

☆柔道整復師って?

柔道整復師とは、骨折や脱臼など骨や筋肉、靭帯の損傷やけがを道具を使わずに手技で治療、改善する国家資格です。主に接骨院やクリニックで患者を治療したり、スポーツトレーナーとしてけがの予防や治療を行ったりします。柔道整復師の治療は「人体にやさしい」のが特徴です。一般的な病院で行っている外科手術では「傷跡ができる」「手術できない高齢者がいる」場合などがあります。この点、柔道整復師が行う治療は「非観血的手術」と呼ばれ、切開したり薬を使うこともないので、老若男女を問わず治療を施すことができます。柔道整復師が行う施術は主に「整復」「固定」「後療法」の3つです。まず、患者から外傷や打撲などの症状を聞き出し、けが当時の状況や痛みの有無を確認します。骨折や脱臼、捻挫などの場合は幹部を触診し、手技によって正常な位置にもどします。この作業は「整復」と呼ばれ、柔道整復師でなければできない施術です。「固定」とは骨折や靭帯の損傷などの場合に、患部を固定剤やテーピングテープで固定し、症状の悪化を防いだり、予防したりします。「整復」や「固定」によって患部の治療をした後は、より早く改善するように自然治癒力を高めたりマッサージを行い、患部の治癒を促進させたりします。これが「後治療」と呼ばれる施術です。柔道整復師はこの3つの施術を主に行い、患者の症状を早期改善させることが仕事の内容になります。人体の構造や仕組みに精通している点は鍼灸師と同じですが、「鍼でツボを刺激して治療するのか」それとも「手技によって治療するのか」に違いがあります。日本は年々お年寄りの数が増えている高齢化社会です。高齢者にとって病院に行かなくてもいい接骨院やクリニックは非常に重要な存在になっています。治療が必要な高齢者がこれからも増えていくと予想されているので、柔道整復師の需要は今後も高まっていくでしょう。

 

☆ダブルライセンスの魅力とは!

鍼灸師と柔道整復師のダブルライセンスを持っている人は、いわば「人体のスペシャリスト」といえる存在です。けがや打撲などの外傷を治療、改善、予防をさまざまな方法で治療できるので、活躍できる幅が非常に広がるでしょう。たとえば、「プロスポーツ選手のトレーナー」を例に挙げてみると、鍼灸師の資格だけの場合、施術できるのは鍼と灸のみです。プロのスポーツ選手にとって打ち身や打撲などのけがは選手生命に関わるので常に気をつけておかなければなりません。この点、柔道整復師の資格があれば、テーピング方やマッサージなどの物理療法で選手のコンディションを整えたりけがの予防をすることができます。オリンピックや大きな大会になれば選手団のなかに鍼灸師と柔道整復師のダブルライセンスをもった人は必ずいるほど重要な役割を担っています。また、ダブルライセンスがあると独立開業するときにも非常に有利です。独立開業にあたって一番のネックとなるのが「どうやって患者を集めるか」という点です。クリニックで集客する場合、「どれだけ患者が満足する施術を行えるか」がポイントになります。患者によって症状やけかの状況は異なります。「この患者には鍼治療」「この患者には整復治療」など患者の容態に応じて施術を使い分けることができるのは大きなメリットです。少しでも対応できる患者の幅を広げるのはクリニックを運営する上で重要なポイントになるでしょう。こうした点からもダブルライセンスのメリットは非常に大きいといえます。

 

☆独立開業を目指すならダブルライセンスがおすすめ

独立開業をする場合に問題となるのが「保険適用の施術を行えるのかどうか」という点です。この点、柔道整復師は保険適用が認められている国家資格になるので保険内施術が可能になります。もっとも、一般的な医療保険の自己負担制度とは少し内容が違います。柔道整復師の施術は「療養費扱い」となり、原則的に患者が全額自己負担後に保険者に対して保険適用分を請求する形(償還払い)になります。しかし、柔道整復師は例外的に窓口で保険適用分を立て替え、差額だけを患者に対して請求することが認められています。これを「受領委任払い」といいます。患者にとって「保険適用がある」「窓口で適用してもらえる」という点は非常に大きなメリットです。他にも、鍼灸師の資格だけでなく柔道整復師の資格があれば医療業界で仕事をする機会も増えるでしょう。柔道整復師の中には接骨院やクリニックに勤務せず、病院の整形外科で経験を積む人もいます。整形外科には柔道整復師だけでなくリハビリを主に行う理学療法士も勤務しています。柔道整復師が行う施術に「固定」という方法がありますが、固定を行うと患部の筋肉が萎縮したり靭帯が固まってしまいます。萎縮した筋肉や固まった靭帯を正常に戻すのが理学療法士の仕事です。身近で理学療法士の仕事を見たり、ときには一緒になって仕事をすることで経験や仕事の幅が広がります。また、医療関係者との人脈やツテができることも独立、開業する際に非常に有利です。病院からの紹介で患者を受け入れることができれば、クリニックの経営も安定しやすくなるでしょう。また、こうした経験や人脈はクリニックや医院を開業するだけでなく、スポーツトレーナーや美容業界で独立して仕事をするときにも役に立ちます。

 

☆ダブルライセンスは独立開業の強い味方

鍼灸師や柔道整復師といった資格は1つの資格だけでも十分、独立開業ができるような国家資格です。しかし、実際に独立開業するとなると現実はそれ相応に厳しいでしょう。競合となるクリニックや医院は日本全国にあり、日々熾烈な競争を繰り広げています。「鍼治療専門のクリニック」や「灸に特化した医院」など自分の医療技術を高めて競合と差別化する必要があるでしょう。しかし、1つの技術にこだわりスキルを高めることは諸刃の剣でもあります。自分が理想とする治療が多くの患者が満足するものでない場合、独立開業するのは難しいでしょう。そんな中でも生き残っていくためには、すこしでも将来の可能性や対応できるフィールドを広げておくことが大切です。鍼灸師と柔道整復師両方の資格を取得することで、独立開業する際のリスクを少しでも下げることができます。独立開業を真剣に考えている人はダブルライセンスの取得を目指してみてはいかがでしょうか。

 

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